尻拭い

まあそのクビになりそうな会社の話なんですけどね。
かなり零細な会社でして社員も10人足らず。まあでも意外と人は悪くなくて
こういう零細企業にありがちな社長の独裁国家ってこともない。
でも、こういう事件ってのは起きた。
 
僕がこの会社に入社して確か1か月目だったと思う。
もともと歯科医院だったっていう建物を間借りしてる形なんですけ
トイレが個室洋式二か所だけ。一般家庭に設置されているタイプのあれが2か所あるだけなんですよ。
で、社員が主に使うのは玄関に近い一か所だけ。もう一つはなぜか社長しか使おうとしない。
あれは寒さ厳しい12月のこと。昼下がりの社内で尿意を覚えた僕はトイレに向かったんです。
デスクを立ち、いつもとなにも変わりない玄関廊下を抜けてトイレのドアを開け便器に座ろうとしました。
そうしたら信じられないものが目に飛び込んできたんです。
 
便器の水の中に堂々とその巨体を横たえるウンコ。
 
いや、流せや。
 
訳が分からん。
僕も社会人経験が薄いのでまだまだ勉強中の身なんですが
会社のトイレでウンコを流さないってのも立派な勤め人の条件なんですかね。
だとしたら小学校のトイレでウンコぶちまけて逃げてたやつっていっぱしの大人だったんだな。
 
そんな感じでしばらく呆気にとられてたんですけどふと自分の尿意を思い出してちゃんと流してから用を足しました。
尿意が消え去った後って結構冷静に物事を考えられる気がして次の瞬間には僕の脳内で被疑者探しが始まりました。まず事件当時、社内にいたのは僕を含めて4人。社長、副社長、外部顧問の男性(60代前後)、そして僕。
被疑者から除外できるのはまず社長。なぜなら誰も使おうとしないトイレしか使わないから。
そして副社長。彼は僕の斜向かいのデスクなのでトイレに行けば一発でわかる。
そう、もうお分かりですね?。犯人は外部顧問。間違いない。何より僕がトイレに行く10~20分ほど前に彼がトイレに行く姿を僕は見た。
冷静に考えるまでもなく犯人はコイツだった。
 
実は、この外部顧問ってのが僕の指導担当になってまして僕はかなりきつく当たられてました。
なんせ仕事がさっぱりできない。まあ未経験の異業種転職なんで当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが。
彼の怒鳴りつけるようなしゃべり方にすっかり萎縮してしまった上に自分の仕事出来なさ加減にすっかり自信を無くした僕はもう試用期間内での退職を申し出ようと考えていました。
だけど何を思ったのか僕はその退職の意思がある旨をその外部顧問に相談したんです。彼は毎日来るわけじゃないからメールでね。僕は突然こんなヘビーな話をこのブログ記事の2倍はあろうかっていう文量で彼に投げつけました。
そうしたら意外なことに彼は翌日には僕が送り付けたメールの1.5倍はあろうかっていう文量で返してくれました。
その中には
 
”人間には得手不得手があることは仕方ない、だけど努力次第でそれを乗り越えることはできる。
あなた(つまり僕)が諦めない限り私はあなたへの協力を惜しまないでしょう。”
 
ということが彼自身の体験を交えながら綴られていました。
このメールを受け取った私はしばらく無心というか放心状態になっていたと思います。
恐らく元々そういう性分というか人との接し方なんでしょうが彼はかなり声を荒げてしゃべります。
文字の書き間違い一つでも激しく叱責されるくらいなので僕は間違いなく嫌われていると思っていたし
そうでなくても使えないやつと判断されてるのは確実だったので僕の個人的な悩みに対して
あそこまでの応え方をされるとは思ってなかったんです。
僕の中で”なんでここまで?”という疑問と彼に対する認識の変化がぐるぐると激しく渦巻きながらぶつかり合って変化した瞬間でした。
 
上に書いた通り、彼はあくまで外部顧問なので会社から給料を受け取ってません。
タダで僕みたいなバカの教育を引き受けてくれていたのです。
そう思うとあのキツイ言葉も何もかもがすべて僕を思ってくれてのことだったのかな、と思えてきました。
 
他人同士が分かりあうってそうそうできるもんじゃないし真の意味での理解なんてきっと永遠にできないものだと僕は思ってます。
僕がこの一件で感じたことだって僕の勝手な思い違いにすぎない可能性も十分あります。
だけど、ほんの少しだけ距離を近づける方法って意外と見落としがちなだけで本当はとっても簡単なことなのかもしれない。他人を理解していくってそういう簡単なことの繰り返しで成り立っているんだと思う。
 
 
 
まあ、結局役員判断でクビ確定してるんだけどな。
 
 
一つ忘れてた。
あのトイレのウンコだけど、便器の中にはウンコしかなかったのよ。
トイレットペーパーは一枚もなかった。
 
あいつ、たぶんケツ拭いてないわ。